(1)リチウム充電池は、発火、爆発など取扱いに注意が必要なため、まとめておく。
発火実験 : (4) - B 報道資料抜粋
報道資料なのにデータが不明、V 不明 2200 mAH リポ電池を、Ni-CD 充電器で 6 A の 3 C 充電のムチャクチャで約 40 分で発火
目的は、リチウムポリマー電池が搭載された TOY ヘリを修理するときの参考にする。
(2)リチウム充電池の特徴
@リチウム充電池には、リチウム・イオン電池とリチウム・ポリマー電池の 2 種類がある。原理は同じ。
充電は、正極化合物中のリチウムが+イオンとなり、網目状のカーボン負極中にため込まれる。
Ni - MH 充電池に比べ、高電圧、軽量であるが、有機溶剤が使用されており、扱いを誤ると危険。
リチウム・イオン電池 ・・・・ 電解液に可燃性有機溶剤を使用したもので、ハードケースで保護してある。
これは、デジカメ用で + − T(サーミスタ:外部監視用)電極がついており、内部に保護回路が内臓されている。
リチウム・ポリマー電池 ・・・・ 電解液の可燃性有機溶剤を難燃性高分子ポリマーに含浸し、ゲル状にしたものである。
ハードケース保護タイプとラミネート袋入りタイプがある。
TOY ヘリ用でラミネート袋入り
袋上部に IC がついているものあり。
A定格電圧は、1 セル当たり 3.7 V である。絶対に 4.2 V を超えさせてはいけない。
多セルの場合、セルごとの管理が必要である。
B放電電流は、1 C 以下が推奨されている。1 C とは 500 mAH などの 500 mA をいう。
一般的には 2 C までいけるらしいが、大型ラジコン飛行機では 15 C、20 C などの記事もある。
C 2.3 V 以下まで放電させると電極が電気分解され、使用不能になる。
さらに 0.6 V 以下になると金属の析出による電極のショートやガスが発生し、電池が膨れてしまう。
電池電圧が 3 V 近辺まで低下すると、使用をカットする回路が電池側機器に必要である。
D保管は、満充電ではなく、残電圧が 3 V 以上の状態で、端子を絶縁し、耐火性のある缶などに入れて保管する。
自然放電は少ないので長期保存ができる。
E充電は、過去リコールさわぎがあったように、最も危険で適当にやると爆発・発火の危険性がある。
F充電は、NI-MH のような急速充電はできないし、鉛電池のような常時接続のトリクル充電もできない。
メモリー効果がなく、つぎ足し充電ができるので、常時接続して電圧監視をしながらの間歇充電はすることができる。
G電圧が 4.2 V より低い時は、1 C ( 0.7 C が推奨されている )の定電流で充電し、電圧が 4.2 V になったら、これを絶対こえない定電圧で充電する。
電圧が 2.9 V 以下のときは、0.1 C で充電し、3 V をこえてから 1 C に切り換える。
充電電流が 1 C の 1 / 10 以下( 0.1 C 〜 0.07 C )に低下したら終了とする。
4.2 V の定電圧に切り換わると電流はゆっくりとしか低下しないので、満充電するには 1 C 充電で 2.5 時間、0.5 C では 3.5 時間かかる。
H 1 C 充電では、約 1 時間 で 90 % 程充電されるので、90 % でよしとするなら、1.5 時間が省略できる。
同様に 0.5 C 充電では、約 2 時間 なので 1.5 時間が省略できる。
I初期には電線と電極間が直結であったが、最近では保護 IC が内臓されているものがあり、注意が必要である。
Panasonic の充電例
・放電したセルの初期電圧は、3.5 V ぐらいなので、1 C の 1.3 A 定電流で充電を開始する。
・セルの電圧が 4.2 V に上昇したのを検出すると、4.2 V の定電圧充電に切換える。この例では、開始から約 42 分後である。
・充電電流が 26 mA に低下したのを検出すると充電終了である。この例では、開始から約 128 分後である。
Panasonic の過充電、過放電、過電流保護指針
・過充電
1セル電圧が 4.30 ± 0.0 5 V 以上で充電停止
1セル電圧が 4.10 ± 0.0 5 V 以下で充電停止解除
・過放電
1セル電圧が 2.3 ± 0.1 V 以下で放電停止
1セル電圧が 3.0 ± 0.1 V 以上で放電停止解除
・過電流保護
出力端子短絡時放電停止
短絡解放により放電停止を解除
一般には、これらは電池側で回路を内臓しなければならないので、電池単体では販売されない。
充電側では、電圧・電流監視、サーミスタ端子 T で温度監視、トータル充電タイマ、充電完了タイマなどが必要。
トータル充電タイマとは、電圧判定などで充電を一時中断している場合でも積算し、12 時間をこえると強制終了させる。
充電完了タイマとは、CV モードが 2 時間連続したら強制終了させる。
・・・とまあ 0.0 5 V レベルの細心の注意が必要である。TOY ラジコンでどこまでやっているかな。
(3)TOY ヘリのリチウム・ポリマー電池
@TOY ヘリでは、1 セルのもので 定格電圧が、3.7 V で電池容量が 70 〜 80 mAH のものが使われている。
Aノーブランドの正体不明で、放電が何 C までいけるのかわからない。
2C を超えて使用されているかも知れない。
B60 分充電で 5 分ぐらい飛行のサイクルで使われている。
1台で習熟するには相当な時間と根気がいる。
C下記の回路は実機のものではなく、簡易充電器を製作するとすればの回路である。
ヘリ側の回路は多分、このようになるだろうという回路である。
修理をするなら簡易充電器は必須。
・充電器の電源電圧であるが、4.2 V 以上がいるのはわかるけど、80 mA を流すのに何 V が必要なのかわからない。
実機では、単 3 電池 6 本( 9 V )が使用されていた。ここに落とし穴(後述)があるので注意が必要。
USB でも充電できるケーブルが付属しているのもあり、5 V でよいかも知れない。
・SW ON で充電開始する。充電時間を 60 分(可変)とするタイマを起動
・Lipo 専用 IC は、リニア・テクノロジー社の LTC 4054 X - 4.2 max 800 mA @¥400 を使用する。
CC - CV の自動制御をしてくれる。
・定電流の値は、 R prog 抵抗で設定する。
R prog [KΩ] = 1000 / 定電流値 [mA] で、80 mA なら 1000 / 80 = 12.5 [KΩ] となる。
誤差 1 % の 10 K + 10 K の多回転半固定がいいかな。
・Charge LED は、自己点滅なら抵抗は不要
・1 μF のパスコンは、積層セラミックの場合、 1.5 Ω を直列に入れろとあり、普通のセラミックのほうが良いみたい。
・ヘリ側には、充電 - 飛行の切換 SW がたいていついている。
リポ電池+側に短絡防止の低抵抗がついているのもある。
・過放電させないための電圧低下の検出は、マイクロチップ社の TCM 809 T @¥100 を使用する。
PIC マイコンなどの電源投入時の、リセット信号用であるが、電圧低下でも信号が出る。
型番 T は 、スレッショルドが 3.0 8 V であり、3.0 8 V 以下に低下すると MCLR が LOW となる。
この低下信号で動力をカットするが、カットすると電圧が上がるのでバタバタしないようにしておかねばならない。
動力カットすると墜落するので大型ヘリでは危険、警報にしておくなどの工夫がいる。
(4)どうする?
@ギヤの磨耗状況、ロータ回りの破損状況をチエックし、ひどい場合は、この時点であきらめる。
結構強い力がかかる上、細かいので接着修理しても 1 回で破損する公算が大きい。
A送信機の乾電池電圧、赤外などの変調信号の状態をチエックする。
B充電回路をチエックする。
手持ちの正常なリポ電池をつないで、充電電圧と電流値をチエックする。
電池をつながないと、電圧が出ない場合もある。Ni - MH で代用できるかも知れない。
電圧、電流が異常な場合は、この時点であきらめる。
充電回路が OK の場合や、USB などの別の充電方法がついているなら次のチエックへ進む。
測定には、2P オスとメス 1.5 ピッチか 2.5 ピッチのリード線つきコネクタが必要
Cヘリの電池電圧をチエックする。
測定用コネクタを差し、電圧が 0 V ならバッテリ NG 。
2 V 以上なら上記自作の充電器で充電してみる。
4.2 V に充電できたら、動作させてみる。
充電中は、おかきの缶などに入れ、席を外してはいけない。
Dここまで調べてから、処置を決める。
Cの搭載電池のみ NG の場合は、使用者が大人に限定されていて、危険を説明し \ 500 の了解がとれれば交換する。
ママと子供だけが関与する場合は、お断りする。
充電は、送信機本体が NG の場合は、USB でしてもらう。
この場合、送信機本体の充電コネクタは無効にしておく。
Bの充電回路がおかしい場合、ハードを追跡し、無理やり電圧が出るようにしてはいけない。
NI - MH などと違い、過充電すると間違いなく発火する。
2013.05.23 東京消防庁 報道発表資料 模型用のリチウムポリマー電池の充電に注意!
出力素子の破損だけならともかく、それ以上は、リスクが増え、安心できないので、充電回路の深追いはしないこと。
Eカルテに何をどこまでしたか上記を意識してメモしておく。
(5)落とし穴
@実機のアルカリ電池本数が 6 本 ( 9 V ) の場合、電池が消耗しても使える限度を 1.2 V とすると合計 7.2 V になる。
A充電は一般的に電流が多いので、電池電圧が低下する。電池の内部抵抗を 1 オームとし、電流を 200 m A とすると 0.2 V 低下する。
6 本だと 1.2 V 低下する。
B実機の充電回路はこれらを考慮して、9 V の場合、出力素子に 6 V ぐらいがかかるようにしてある。
C修理時に電池の代わりに定電圧電源を使うと、電圧が降下しないので、充電出力素子に余分な電流が流れ、長時間では、オーバーヒートして出力素子を壊してしまう。
大きな電流が流れる場合は、定電圧電源の電圧を下げてやらねばならない。
(6)充電器
(3)項の充電器を製作した。
@ケースは、100 均のヘリ、PIC12F629、DC 5 V 電源使用、3.7 V 70 mAH Lipo を内臓した。
ATOY ヘリ(または在庫 Lipo )に前部から出ている充電コードを差し込んで充電する。
Bこの充電コードをこのヘリの前部コネクタに差せば内臓 Lipo を充電できる。
C充電専用 IC では 約 70 mA の定電流で始まり、途中で 4.2 V の定電圧に切り替わり、2 時間程度でカットされる。
タイマ 1 時間でカットしたが十分充電できている。
D内臓 Lipo の放電は、TAMIYA ミニモータを回し、ロータを回す。約 30 分で 3.08 V 以下を検出して停止する。
E充電 / 放電時の電圧測定端子、充電時の電流測定端子をつけてある。
(10)番外 B 787型機の Li - ion バッテリ事故
@ボーイング B 787 型機の主な電気系統
☆VFSG ( Variable Frequency Starter Genarator )
主ジェットエンジン 2 機で駆動する発電機で、 4 台ある。計 1500 KW
飛行中の電力はこの発電機でまかなう。
☆APU ( Auxiliary Power Unit )
2 台の小型ガスタービンエンジンで、主エンジン始動用の圧空、油圧を供給し、発電機 も 2 台ある。
これにより、設備のない空港でも主エンジンが始動できる。
駐機中の、給油、照明などの電源はこれで確保される。
☆RAT (Ram Air Turbine )
緊急時に胴体下部に風車が降りて風力発電する。
☆APU Battery
APU エンジンを始動する Li - ion バッテリ、3.7 V × 8 セル 29.6 V _ 75 AH
☆Main Battery
管制に必要な最低限の電気を供給する Li - ion バッテリで、APU Battery と同じもの
全ての発電が失われたときのバックアップ用で通常は使用しない。
A事故の経過
2013.01.07 ボストン国際空港で駐機中のJAL 008 便の APU Battery から発火
2013.01.16 ANA 692 便が香川県上空で、「 前電気室煙感知 」 警報 ( Main Battery発煙 ) と異臭により、高松空港に緊急着陸
2013.01.16 FAA ( アメリカ連邦航空局 )は、ANA の事故により、改善命令を発行
これにより、日本の国土交通省が B 787 の運航停止を命じる
これを各国も追随し、世界で運航中の 50 機のすべてが運航停止となる
2013.01.17 Li - ion バッテリ製造の GS ユアサが原因か?の報道で日本に衝撃走る
全電源喪失ではなく、スタンバイであること、GS ユアサや BMU ( Battery Monitering Unit : 関東航空計器 )に欠陥が見当たらないなど少し安堵
バッテリシステムの、基本設計、全体コントロールのハードとソフト、バッテリ、充電器、過充電防止装置、配線などが、多国籍に渡り、原因が特定できぬまま推移
一番あやしい過充電防止装置が韓国 LG 社とわかってから報道がピタリと止む
2013.03.07 NTSB ( 米国家運輸安全委員会 ) はボストンで起きた JAL のバッテリー火災について、中間報告を行ったが原因は不明
2013.04.19 FAA は原因不明のまま、ボーイング社の B 787 型機バッテリー改善案 ( リスクアセスメント方式 : 起きても大丈夫なようにする案 ) を承認
2013.04.26 FAA は改修した機体の運航再開を許可
2013.05.14 ボーイング社が B 787 の納入を再開
2013.05.26 ANA が臨時便より商業運航を再開
2013.05.29 全世界 50 機の改修完了
2013.06.01 JAL が商業運航を再開
2014.01.14 成田空港で準備中の JAL 機の Main Battery から電解液が漏れ、白煙排出、セル 1 個が損傷
2014.09.25 日本の運輸安全委員会は、調査報告書を公表した。
・根本原因は、特定できなかった。
・単一の重大な欠陥ではなく、数々の要素が重なって電池がショート(内部短絡)し、メインバッテリーの損傷につながったようだとした。
・ボーイングには、調査継続を要請し、米連邦航空局(FAA)には、リチウムイオン電池の安全点検を今後強化するよう提案した。
・トラブルがすべて 1月に発生したことを踏まえ、冬季の低温がバッテリー不具合に関与した可能性があるとしたが、その改善指示はしていない。
2014.12.01 NTSB が最終報告
・根本原因は、特定できなかった。
推定原因として
・セル 1 個の内部でショートし、その発熱が他のセルに波及し、発煙に至った。
2014.12.19 成田空港で 1 月、日本航空のボーイング 787 型機のバッテリーから液体が漏れた問題で、国土交通省は 19 日、8 個あるリチウムイオン電池の 1 個で内部ショートが起きて過熱したとする調査結果を公表
・電池の 1 個が過熱して電解液が噴出
・外部に痕跡はなく、電池内でショートが起きたとみられる
・別の電池を分解したところ鉄や銅などの微細な金属片が見つかったが、分解時に紛れ込んだとみられ、原因には結び付かないとした
ショートの原因は特定できなかったが、周囲の電池に熱は伝わっておらず、昨年の改修の効果が確認された
ボーイング社や米当局と連携し、バッテリーの信頼性向上に努めるとした
---- 2016.12.23 ----