(1)撚り電線の芯線をヒューズとして使用できるか実験してみる。

目的は、おもちゃに時々ついている糸ヒューズが切れているときに代替できるかどうかです。

(2)必要条件

@一般に入手でき、素線径が明示されている線であること。
A0.3 A 程度で切れず、1 A ぐらいで即断すること。

(3)結論

入手できた範囲では、要件を満たせなかったので、無条件には使えない。
@入手できた最細の φ 0.04 でも 1 A では切れるのに 1 分かかった。
A電線にはヒューズのような電流 - 時間特性はなく、切れるか切れないかで幅がなく、選定しにくい。
B切れる前に赤熱状態が長く続く場合があり、空間がないと危険である。
C単 3 アルカリ電池の短絡実験 [(7) - C 項] では、2.9 A 〜 3.4 A 以上流れ、使えそうではある。

(4)実験結果

@φ 0.12
3.4 A で赤熱するが切れない、引くと切れる。

Aφ 0.08
3.4 A で 1 秒以下で切れた。
2.5 A で 赤熱し 1 分で切れた。
1.8 A で 5 分では 切れなかった。

Bφ 0.04
1.50 A で即断
1.02 A で 1 分 5 秒で切れた。
0.50 A で 60 分では切れなかった。

Cφ 0.18
φ 0.12 でダメなので未テスト

φ\A 0.50 1.02 1.50 1.80 2.50 3.40
0.04 60分OK 1分で断 即断した - - -
0.08 - - - 5分 OK 1分で断 即断した
0.12 - - - - - 赤熱継続
0.18 - - - - - -


(5)実験器具

@電線

左から
φ 0.12 × 10 芯 ( 換算 0.11 sq :PP-13NH:ELPA:ホームセンタ )
φ 0.18 × 12 芯 ( 換算 0.31 sq :HK-WS12H(R):ELPA:ホームセンタ )
φ 0.08 × 07 芯 ( 換算 0.04 sq :7/0.08SHW×10:マルツ通販 )
φ 0.04 × 10 芯 ( 0.0127 sq :超極細電線: インドアエアプレーン通販 )


A直流 12 V 5 A、6 V 1.8 A 定電圧電源( GF651-US1250、GFP-101U-0618:秋月 )
Bニクロム線( 600 W PE-56NH:ELPA:ホームセンタ:全長で 16.7 Ω )
Cデジタルテスター( CD731:SANWA:20 A 可 )

白丸部 ・・・ ニクロム線を半田用ヒートクリップでさぐり、電流を決める。
赤丸部 ・・・ テスト部、テスト線をクリップに巻きつける。
緑丸部 ・・・ テスト線


さすがに φ 0.04 は半田接続しないとつかめない。
片側が玉になって飛んでいる。



(6)どうする?

適当に電線をばらして芯線をつけるのは、ヒューズの役目をしていない場合があったり、太い線で接続するよりはマシと思ってつけると、逆に赤熱したりするので怖い。

案@修理できた後に、通常電流を測定する。
0.5 A 以下なら、周囲に空間があることを確認し、φ 0.04 をつける。
いざという時に飛ばない不安が残る。
もう少し細い電線が入手できないと安心はできない。

案Aガラス管ヒューズを壊して中の線(鉛・スズ・亜鉛合金)を使う。¥30 かかる。

ヒューズの場合、定常電流の 1.5 倍程度のものを選定するのが普通であるが、AC 用のヒューズを DC で使う場合、DC 1.0 A のとき、AC 用の 0.7 A のように 0.7 倍せよとある。1.5 倍して 0.7 倍だから定常電流値の直近上位のものでいいことになる。

中の線を切らずに取るのと半田と成分が似ているので半田コテで溶けないように。
スペースがあれば壊さずに直接半田付け。
これは実際にはまだしたことがない。

案Bポリスイッチを使う
厳密には回路断にはならず、高温状態が続くのであまりよくない。¥30 かかる。

案C抵抗ヒューズを使う
ついていて仕様がはっきりしており、手元にあれば使う。 新たに選定は困難

案Dダイオードを使う
小信号 200 mA 程度のものだが、電圧ドロップに注意要


安心できるのは 案A であるが、新品を壊して取り出すので気持ちよくない。
次に案Cの抵抗ヒューズで、在庫に同じものがあった場合だが、同じものとの判定が難しい。
現実的なのは、案Bのポリスイッチかな?



本当にヒユーズが必要なのかな?
実際に飛んでいるのだけれども、それは当初からきつめについているのでは?
ゴミ付着、潤滑枯れなど自然負荷増が考慮されているのかな?
0.3 sq ぐらいの電線で配線していれば、短絡場所にもよるが、乾電池では配線を焼損させるだけの電流が流れないのでは?

学校教材のベルなどは、短絡時の細エナメル線ヤケド防止のため、無条件でアルカリ電池は禁止、マンガン電池使用にしてあるという。
ヤケドくらいさせて、乾電池でも赤熱して危険なものであるということを教えておくべきと思うがね。

電池の種類、使用本数、電圧低下、配線太さなどバラバラのおもちゃのヒューズ代替は、結構むつかしいものだ。
ヒューズメーカから言わせれば 「あたり前だァ・・できたら苦労するか」 とオコラレそう。


(7)参考資料

@JIS ・・・ 日本工業標準調査会で無料閲覧できる。
JIS C 8352 - 1983 配線用ヒューズ通則
JIS C 6575 - 1 - 2009 ミニチュアヒューズ通則
JIS C 6575 - 2 - 2005 管形ヒューズリンク

AB 種 ガラス管ヒューズ (JIS からピックアップ)
定格電流の 1.3 倍で不溶断、1.6 倍で 1 時間以内に溶断、2.0 倍で 2 分以内に溶断
参考:限流ヒューズで定格 1 A のものは 6.3 倍で 16 ms 以内に溶断

B銅線の溶断電流 プリース氏公式:1888(溶断時間は記されていない)・・・ オーム社 電気工事データブック 昭和 45 年

I = a × ( d の 1.5 乗 ) ・・・ 1.5 乗 = 3 / 2 乗 = √d × √d × √d

I : 溶断電流 A
a : 材質定数 銅 80
d : 電線直径 mm

上記で計算すると、φ 0.04 で 0.64 A 、φ 0.08 で 1.80 A 、φ 0.12 で 3.33 A、φ 0.18 で 6.11 A となるが、1888 年当時の銅線より今の銅線のほうが質がいいはずで、実験では即断する定数としては、80 が 150 ぐらいになっている。

C単3アルカリ電池の短絡電流実測
電池をデジタルテスタ 20 A レンジで短絡した。
無負荷 1.578 V 10 Ω 負荷 1.520 V のもの 3.4 A 以上
無負荷 1.499 V 10 Ω 負荷 1.440 V のもの 2.9 A 以上


(8)抵抗ヒューズ

元々は、スイッチング電源の入力側に流れる突入電流を抑えるものらしい。
家電などでは、電源以降の各分岐回路の保護用に使われているという。
常時ロスがある使い方でエコでない。
選定マニュアルもほとんどなく、試作実験せよとある。

<例> 電池 4 本 6 V で抵抗ヒューズ RF を 1 Ω (茶黒金)とし、W を考えてみる。

電池の内部抵抗 r は、1 本あたり 0.5 Ω とする。
負荷は、4.5 V 、0.5 A 、9 Ω とする。

電流 i = 6 / ( 4 × r + 1 + 9 ) = 6 / 12 = 0.5 A となる。

RF の電圧は、0.5 V なので RF の W = 0.5 × 0.5 = 0.25 となる。
タイコエレクトロニクスの FRN-25J の 16 倍の電力消費で 60 秒以内で溶断する素子にしてみる。
電力 16 倍とは、電流 4 倍で溶断するということ。

16 倍は、0.25 × 16 = 4 W となり、そのときの電流は、W = I × I × R から 2 A となる。

モータが短絡したとき、流れる電流は、 6 / ( 4 × r + 1 + 0 ) = 6 / 3 = 2 A となる。

つじつまは合っているようだ。

おもちゃ修理での問題点

@電力で選択しなければならないが、公的規格がなく、溶断する倍率がメーカ独自であるので、メーカ不明では定格がつかめない。
16 倍の電力消費で 60 秒以内とか 30 秒以内に溶断とかまちまちである。
抵抗値と太さから推測される W 数を同じにするだけでは、安心できない。

A電源が乾電池の場合、電池種類、新旧や負荷電流で内部抵抗が変化する。
短絡時、仮に電池の内部抵抗を 1 Ω とすると、電流は、6 / ( 1 × 4 + 1 )= 1.2 A となり溶断させることができない。
容量が十分の定電圧電源なら電圧降下がなく計算もできるが、おもちゃの乾電池では不確定要素が多く計算ができない。

B抵抗値 1 Ω の選定もよくわからないので抵抗値を変えることも不安である。

C動力系統の保護が目的であろうが、定格不明のモータが不良で市販品に交換した場合、マッチングしているかも不安である。
試作機でのテストが前提の素子であり、一発勝負のおもちゃを短絡させて試験するなどとてもできない。


(9)ポリスイッチ

@正体は?
温度変化に対して抵抗が変化する抵抗素子、サーミスタである。

サーミスタには、タイプが 2 種類ある。
NTC ( Negative Temperature Coefficient :負温度係数 )タイプは、温度が上ると抵抗が比例的に減少する。

・温度センサとして使われている。


PTC ( Positive Temperature Coefficient :正温度係数 )タイプ は、温度が上ると抵抗が比例的に増加する。

・温度センサーとして使われている。

・電流による発熱で抵抗が増加するので電流制限素子として使われている。

・比例的ではなく、ある温度を超えると急激に抵抗が増加するようにしたものを、ヒューズのような回路保護素子として使っており、ポリスイッチはこれである。
なお、ポリスイッチは、タイコエレクトロニクスの商品名で、リセッタブルヒューズが一般名である。


室温では 0.1 Ω 以下だが、125 ℃ ぐらいから 1000 倍の 100 Ω 以上となる。


A原理
ポリエチレンなどの低融点ポリマーにカーボンなどの導電材を配合したものが電極間に入れてある。
常温では結晶体は動きが少なく、互いに接触して低抵抗で結合している。
ジュール熱で高温になると結晶体が熱運動で動き回るため接触が少なくなり、トリップ状態に等しくなる。
このとき、素子は膨張するので、レジンなどでガチガチに固定してはいけない。


B特徴
・常温では低抵抗で損失が少ない。

・電流が正規になると温度が下がり、元の抵抗値に戻るので、リセッタブル(自動復帰)である。

・トリップ後も微少電流が流れており、この熱によりラッチされるため、トリップとリセットが繰り返されることはない。

・動作速度が遅いので、モータなどの起動突入電流は気にしないでよい。
  動作速度のアバウトは、定格の 5 倍 で 4 秒程度である。

・標準品は、通常電流 : トリップ電流 = 1 : 2

・並列接続で通常電流を倍に増やせる。

・温度ヒューズとしても使える。



Cおもちゃへの適用
・電池は最大 6 本ぐらいなので 9 V の 3 倍として定格電圧が 30 V 以上のものを使う。

・普通は、定格電流が 0.5 A ( トリップ 1.0 A )のものを電池配線に直列に入れるのでよいだろう。
  モータ 0.2 A + スピーカ 0.05 A + LED 0.1 A = 0.35 A

・主に Ni-MH 電池使用時の大短絡電流による電源配線保護であり、素子保護ではない。
  マンガンやアルカリでは、短絡電流が少ないので配線が太ければ不要。
  素子保護をするなら即断ヒューズがいる。

・フィルムスピーカがよく壊れるが、過電流での破損の場合、電流制限として使えそう。
  8 Ω 0.25 W の場合、177 mA がMAX、+ 4.5 V で駆動の場合、トランジスタが飽和すると、438 mA
  も流れて焼損する。
  0.17 / 0.34 がピッタンコ。

・トリップ時、高温状態が続くので、冷却空間が必要。


Dその他
・Sanyo で Toy Cell という おもちゃ専用の Ni-MH 電池があったが、ポリスイッチが内臓されていたようである。

・ポリスイッチとは、警護の意味のポリとポリマーの掛け合わせ?でうまいネーミングです。




---- 2013.12.14 ----
2024.03.12 修正